どうもこんにちは、だいさくです。
本庶先生と小野薬品の裁判が全面解決しましたね。
現在日本で使われている医薬品の80%弱は外資系製薬会社が開発したものになるのですが、
僕は日本のアカデミアから、また、日本の製薬会社から、
世界を席巻するような医薬品が出て欲しいと心から願っています。
なのでどちらかというと本庶先生の方に気持ちが偏っている部分はあるのですが、
10年製薬会社でMRをやり、現在大学のアカデミアの部分ともお話ししたりする、
事業開発部に所属している一人の製薬会社の社員として、
今回の和解成立に関して思うことを書いていければと思います。
本庶先生と小野薬品の訴訟判決に製薬会社の社員として思う事を・・
中々日本から世界を席巻するような医薬品というのは出ません。
例えばAMEDが持ってる予算なんてのは、
アメリカの大学一つが医薬品研究に費やしている研究費とそう変わりません。
医薬品の研究開発というのは研究者の熱い情熱に加えて、
多大なる資本が必要になります。
日本には情熱があっても、資本が圧倒的に足りないわけです。
まぁ今のままでは絶対に世界の医薬品市場では日本国は勝てないわけですが、
そんな中、本庶先生の研究成果として出てきたオプジーボが、
世界を席巻した薬剤になったわけです。
ノーベル賞もとったわけですが、
その結果本庶先生が受け取った金額が26億円だったわけです。
本庶先生はなぜ小野薬品を訴えたのか?(振り返り)
本題に行く前に、そもそもなんで本庶先生は小野薬品を提訴したのか?
その辺を簡単に振り返りをさせていただければと思います。
本庶先生が小野薬品を訴えたのは2020年6月です。
訴訟内容は、米メルク社から小野薬品への支払い(BMSを通して)の中から、
本庶先生に対して分配される分配金の増額を求めての訴訟になります。
これは、米メルクが開発した「キイトルーダ」というオプジーボと同じような作用を持つ、
抗PD-1抗体の特許侵害訴訟が行われていたのですが、
それは2017年1月に和解が成立していて、
その結果キイトルーダの売上6.5%がBMS及び小野薬品に支払われることになりました。
その特許侵害訴訟の際に小野薬品は本庶先生に裁判への協力を依頼しています。
その際に小野薬品の相良社長から、
「訴訟に勝利した際に小野薬品が得る(キイトルーダ)のロイヤリティーの40%を支払う」と約束したが、
それが当初の契約通り「1%支払う」との通知に対して、
約束通りの40%である、226億円を支払うための訴訟になります。
本庶先生は後出しジャンケンとは言い切れない
この記事を書くに当たってSNSとか、ネット情報を拝見していたのですが、
びっくりするくらい本庶先生へのバッシングが多いんですよね。
その理由が「本庶先生は後出しジャンケン、よく契約書を見ろ!」と。
先述パートの振り返りをよく読んでみて欲しいのですが、
本庶先生は別に後出しジャンケンではありません。
確かに本庶先生と小野薬品がPD-1に関連する特許のライセンス契約を締結したのは、
2006年10月になるわけですが、
今回の訴訟は2017年に和解した米メルクからのロイヤリティーの分配金の増額です。
確かに2006年の契約書ではライセンス契約で定められた料率に基づいたロイヤリティーは1%です。
しかし、その時にはメルクとの訴訟が行わられるとはわからないし、
それが実際に起こった時、
小野薬品の相良社長から「米メルクからの分配金の40%をあげる」と言われているんですよね。
裁判資料を見ても、本庶先生にそれがしっかり提案されている証拠があるようです。
そこで契約書の変更をしたり覚書を交わしたりしないのがいけないのであって、
それを「後出しジャンケン」という言葉の表現を使うのは違うと思うわけです。
そこをしっかり理解してないと、
2006年のライセンス契約通り小野薬品は支払っているのに、
オプジーボが思いの外儲けてるから本庶がごねてる、
金の亡者だと言ってるのはちょっと違うんじゃ無いかと思うわけです。
問題は京都大学の産学連携のあり方では?
僕も今の製薬会社で事業開発に入ってちょっとわかったことがあるんですが、
大学のアカデミアって余計な仕事が多いというか、
結局研究費用を国とか民間企業から得ているので、
「他所様のお金を使って研究させてるんだからしっかりチェックしろ」的な感じで、
とにかく非合理的な事務仕事や報告、書類仕事が多くて、そこにかなりの人件費が使われています。
そう言った書類仕事のために教授や研究者の時間を使われていたりもして、
その辺をもっと簡略化したり、専門家に任せるなどしないと、
今回のような問題ってまた起こる気もします。
正直企業との契約書の中身って多分見てなくて、
おそらくですが、京大の産学連携部もそのライセンス料なんてみてなくて、
その契約書の内容の不備だけしか見てないのでは無いかと。
僕も長らく製薬会社で働いてますが、契約書を熟読せず判子を押す人を何人も見ているし、
まぁほぼそんな人ばかりです。
他の雑務も多いんです。
言い訳にはならないのですが、
そんな状況で小野薬品の社長の口約束を書面(契約書、覚書)にして来いというアイデアも無いんですよ。そもそも提案書で提案をされているし。
契約とか覚書って普段から製薬会社で働いていたりすると、
当然それはするべきだと思うと思いますが、
それはきっと京都大学の産学連携の支援環境ではまず無理だと思いましたし、
本庶先生というより京都大学の産学連携部の人達がしっかり考えなければならないんじゃ無いかと。
京都大学の産学連携部及び本庶先生の契約書に対するザル加減を、
もし小野薬品の相良社長が知っていて、
それを見越して口約束をしていたとしたら?とも、
それは下衆の勘ぐりになってしまいますけど。
本庶先生に支払われる金額は妥当か?
兎にも角にも本庶先生と小野薬品のPD-1の特許ライセンス料を巡っての訴訟は全面的に解決したわけです。
小野薬品のプレスリリースを見ると、
1、今後も小野薬品の売上高0.5%、BMS社や米メルク社から小野薬品が受け取る収入に対する1%のロイヤリティーを本庶先生に支払う
2、紛争の全面解決に関する解決金などとして本庶先生に50億支払う
3、小野薬品は京都大学内に設立される基金に230億寄付する。
とあります。
まぁ研究費用も市場も違うアメリカと比較する訳では無いですが、
もしこれがアメリカであれば、3倍くらいはそもそも支払われても良いのでは無いかというくらい価値のある薬です、オプジーボは。
米メルクとの訴訟の際には本庶先生に裁判に出席させるために、
程の良い提案をしておいて、終わったら通常通り1%しか払ってこない小野薬品。
その後何の説明もせず、本庶先生が契約を守らないとして、
程よい和解金で解決したのかなぁと見えるのは僕だけでしょうか。
本庶先生は今回の件で、「金の亡者」的なことも言われているようなんですが、
本庶先生に支払われているお金って供託されているので、
その詳細まではわかりませんが、
決して個人的なお金としてるわけでは無いように見えますけどね。
最後に
アメリカのアカデミアにいた人に聞いたのですが、
アメリカでは企業とアカデミアのロイヤリティー契約は、
基本的に2桁以上であることが多いそうです。(まぁ色々パターンはあると思いますが)
そして2次使用、3次使用までもが契約書に織り込まれていて、
日本も米国同様契約書市場主義であるにも関わらず、
アカデミアの人間はそれを全く見てないと言ってました。
ただの書類仕事の流れ作業の一つになっていると。
小野薬品の本庶先生及び京都大学に対しての接し方、
そして本庶先生及び京都大学産学連携支援部のあり方というのを今一度考えるような、
そんな訴訟の決着だったのでは無いかと思いました。
本庶先生は最後に、
「企業から還流される資金や善意の寄付により、基礎研究を長期的展望で支援していきたい。企業と大学が協力して、若い研究者が人生をかけてチャレンジできる研究環境を用意していくことが国の成長には不可欠」
と述べていて、本当にその通りだと思いました。
ではまた!
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